深山の只中

 

何故これほど前に美味しいのか。

茸をエシャロット、バター、塩胡椒、パセリで炒めただけなのに。

逞しい面のセップ茸だが、気温や気候の変化に強い影響を受けやすく、実は繊細。

それでいて、松茸やトリュフと同様に人の手による栽培を受け付けない孤高であり、口を開けた瞬間に漂う妖艶な香りは、脳裏に深く刻み込まれる。

初秋にしか味わえない北島亭のコレは、市場に出回る中でも極上品のセップ茸である。

歯切れの良く、痛快に歯が入る柄。

トロの様にとろけていく儚い傘。

繊維一本一本から滲むほの甘さには、心を抱き込む甘美があり、顔をどうしようもなく歪ませる強さもある。

自然が生んだ純潔なる、清冽な香り。

人間の届かない、穢れなき誇り。

秋の一瞬を永遠にさせる混沌。

ゆっくりと目を閉じれば、そこは深山の只中であった。

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