遡ること小学生時代。
人生で初めて口にしたベーグルが、母が買ってきたMARUICHI BAGELだった。
当時はベーグルの存在など勿論知らず、穴の空いた食べ物なんて竹輪かドーナツの2択だった。
興味津々で齧り付くと、もきゅもきゅとした食感は面白く、食パンやロールパンとは全く違った小麦の濃い味わいが堪らなく美味しくて、それ以来すっかり虜になった。
今では見る影も無いが、少年時代は比較的活発でスポーツが好きで休日は代々木公園に遊びに行く事が多かった。
当時MARUICHI BAGELは代々木上原に店舗を構えていたこともあり、公園帰りによくベーグルを買ってもらった。
だが突然、MARUICHI BAGELが代々木上原から白金高輪に移転した。
不幸なことに白金高輪は生活範囲ではなく、自宅からのアクセスも良くない。
いつしか母がベーグルを買ってくることがなくなり、興味関心が目まぐるしく移ろう少年だった私も気づけばMARUICHI BAGELの事をすっかりと忘れてしまった。
再会したのは大学時代。
当時お付き合いしていた彼女に誘われたのがきっかけだった。
「あぁ、そういえば昔好きだったなぁ。」
懐かしさが込み上げ、途端に食べたくなって二つ返事で白金高輪に向かった。
10年以上ぶりのMARUICHI BAGEL。
代々木上原時代とさほど変わらない狭い店内、焼きたてのベーグルの芳しい香り、笑顔の絶えない明るいスタッフの方々。
場所は違えど、昔好きだったMARUICHI BAGELがそこにあった。
購入したのはシナモンレーズン。
レーズンパンが兎に角好きだった少年時代は、いつもこれ一択。
スタッフのお姉さんにクリームチーズフィリングをおすすめされたので、それも挟んでもらった。
コーヒーを片手にイートインスペースへと上がり、10年ぶりに齧り付いた。
もきゅもきゅとヒキの強い食感、シナモンとレーズンの甘味が乗った小麦の濃い味わいは、少年時代食べた味そのままだった。
あの時と唯一違うのは、クリームチーズフィリングの存在。
さっぱりとしつつもコクがあるたっぷりのクリームチーズとベーグルの相性の良さに、一瞬で恋に落ちた。
「旨い。旨すぎる。」
かつて虜になった思い出の味との再会に熱情が込み上げ、それ以来狂うほどに通い詰めた。
朝ご飯は勿論、酷い時は朝・昼・晩ベーグルベーグルベーグル。
プレーンや全粒粉、フィリングを変え、ベーグルに溺れる日々を過ごした。
一度ハマると深く深くまで掘り続ける性分なので、飽きずに延々と食べ続けた。
時には別のお店のベーグルも食べてみたが、やっぱりMARUICHI BAGELが私の中では頂点だった。
だが、同時に私は冷めやすい性分でもある。
ある日突然と熱が冷め、毎日の様に食べていたのが嘘みたいに食べる頻度が減っていった。
今現在ベーグルを食べることは殆ど無くなった。
気付けば、MARUICHI BAGELも建物の老朽化に伴って白金高輪の店舗を閉店。
24年5月新橋にて再開するとの事だ。
今のところ新橋に出向く予定は無いが、またふとしたきっかけで再会を果たし、3度目の恋に落ちるかもしれない。
一度ある事は二度あるし、二度ある事は三度ある。
後にも先にも私が惚れたベーグルはMARUICHI BAGELだけであり、未来永劫それが変わる事はきっと無いのだから。