嫌だ。終わらないで。食べ終えたくない。
フォークとナイフを手放し、天に向かって、そう乞うてしまった。
リードヴォーとマルチョウである。
危うい幼さと拙さが残るリードヴォー
踏んできた場数が目の詰まった旨味へと昇華したマルチョウ
極端に位置する両者が、典雅香るシックで奥行きのあるマデラ酒のソースによって互いを理解し、口腔内で熱い抱擁を交わす。
あぁ。食べた瞬間陶然となって、中空を見つめた。
味覚に自我が芽生えてから最大の感動である。
我が有史以来、最大の衝撃である。
この感情を真空パックに詰めて半永久的に残したい。
どんなに美味しいものも必ず終わりがある。
食事の残酷さをこれほどに憎く思ったのは初めてであった。
リードヴォーとマルチョウ マデラソース