この真鯛のポワレを食べれば、改めてフランス料理が足し算の料理であることが実感できる。
白身魚に敢えて赤ワインを合わせ、ベーコンやソテーした玉ねぎとマッシュルーム、菜花のクリーム煮そしてポーチドエッグを重ねた一皿だ。
真鯛の品性、赤ワインの酸味、ベーコンの旨味、玉ねぎやマッシュルームの甘味、菜花の苦味、卵のコク、ありとあらゆる要素が後から先から口に訪れる。
口内調味を経て、舌を渦巻く混沌は次第に渾然一体となっていく。
混沌としている様でありながら、内なる秩序が保たれている。
物事は複雑であればある程、参ってしまう。
しかし、その複雑さが無ければ存在しなかった美しさは多数存在していて、複雑であるからこそ新しい秩序が生まれる。
ありとあらゆる要素を断片化し浮遊させたままにせず、等価的に扱い統合する。
そして食材の本来を超越し、新たなコードを創造する。
これこそが、フランス料理の醍醐味なのだ。