食べた瞬間、豚になっても良いと思った。
皮のコラーゲンの甘さが目を細めさせ、頬肉が歯を抱き込み、脳味噌が心を溶かし、耳がコリっと弾む。
四角形の中に様々な旨味と食感が潜んでいて、歯や舌に訴えかけてくる。
その渾然一体を、マデラの典雅が盛り立て、食べ進める毎に豚のコラーゲンがソースに滲み出して色艶が増し、「もうやめて」と言いたくなってしまう。
フローマジュ・ド・テットになる前の豚の写真を見せてもらったが、桜色の鼻と長いまつ毛の美人だった。
このべっぴんさんと結ばれるなら、豚になっても構わない。
「旨い…ブヒ…。」
自然と口から声が漏れた。