「とっておきのデセールです、トイレは必ず済ましておいて下さい。」
高橋マダムから、そう言われて落ち着かなかった。
「トマトソルベのグラタン」である。
冷たいトマトソルベに熱々のサバイヨンを乗せたこの一皿は、供する時間から逆算して、塩を加えたトマトピュレを機械にかけてソルベにする。
ゆるすぎては味がぼやけ、固まりすぎてはサバイヨンとの一体感が失われる。
ゆるすぎず固すぎずの絶妙な一瞬を逃すべく、トイレは事前に済ませねばならないのだ。
ひんやりと冷たいトマトソルベは、舌あたりが滑らかで、口内のどこにも引っかからず溶けていく。
土から吸収した豊富な水分を抱え、塩によって引き立った甘味と酸味の均整が美しい。
そんなソルベがサバイヨンと抱き合う。
極端な温度の対比が味蕾を覚醒させ、トマトに卵の穏やかな甘味がしっとりと寄り添う。
バニラの芳香が抜けていけば、色気が漂い始める。
「人参のムース」にも言えることだが、五十嵐シェフは、主役級ではない素朴な食材に光を照らし、エレガントを広げる。
そこには豪華絢爛な食材をいただくのとは違う、日本的雅があり、感動があるのだ。