助けを求めても無駄

 

マダムが言うままに、皿の上で頬肉を崩してから口に運んだ。

あぁ、何たることか。

フォンとマデラ酒が境目なく溶け合った太い旨味に、繊維から滲み出る頬肉の滋味が浸透し、身体がゆっくりと沈んでいく。

食べ進める毎に皿の深度が増していき、身体が更に下へ下へと沈んでいく。

もう助けを呼んでも無駄だ。

いくら声を上げても、この深淵では何もが掻き消されてしまう。

私はただ頭を後ろに垂らし、茫然とするしかなかった。

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