これが豚とは信じられなかった。
世界3大ハムの一つ、幻の豚と呼ばれる金華豚である。
自身の脂で照った艶々しい肉体は、手をつけるのを躊躇わせるほどに美しい。
切れば、ナイフを伝って柔らかい身質を感じ、鼻腔にこびりついてくる甘い香りに「さぁ、食べて」と誘惑される。
きめ細かい肉体に歯が抱かれれば、健やかな滋味が流れ出す。
濃厚だが押し付けがましくない、清らかな自然の味である。
脂身には密度を感じる確かな歯応えがあるが、それも一瞬。
後は、優美な甘い余韻が、ひたすらにたなびいていく。
その後、マデラ酒でブレゼされた牛蒡と合わせれば、滋味が深くなり、蕗の薹味噌をつければ、甘みが膨らむ。
神秘的な豚である。