まさしく完成された逸品だ。「ぽん多本家」のカツレツは脂身を掃除したロースの芯のみを使う。低温からゆっくりと温度を上げながら揚げた豚肉は、均一に火が通っている。その証に、カツレツの断面は一面のロゼ色になっている。
淡い黄金色の衣に歯を立てると、サクッと快音が響き、しっとりときめ細やかな肉に歯が包まれていく。ほの甘いラードの香り、素直にほどけていく肉の繊維、膨らんでいく肉汁。明治から継承してきた「揚げ」の技術によって、選った豚は淀みない美味しさを訴えかけてくる。
カツレツの切り方もまた秀逸だ。これ以上でもこれ以下でもない。一口でカツレツとご飯が絶妙な配分で納まるように計算され、噛むほどに旨味が膨らんでいくコシヒカリがカツレツの旨味をぐっと持ち上げる。これぞ「ご飯に合う」日本の洋食。「あっぱれ!」と叫びたくなる。
脇を固めるキャベツは極細で紙吹雪の様に軽く、お新香はキリッとした漬かり具合で口の調子を整えてくれ、味噌汁は合わせ味噌の深い旨味と後を引く出汁の風味が心地良い。
揚げ物を食べた後とは思えないさっぱりとした余韻で胃袋が温まる。料理人としての矜恃と食べ手への思いやり。こだわり抜いて境地に達した「ぽん多本家」のカツレツには、一点の淀みのない完成された美味しさがある。
– 上野 ぽん多本家 カツレツ –