親子丼は子を味わう料理だ。ふわっと膨らんだ甘い黄身とトロンとした官能的な白身。溶ききらないことで生まれる子の自由奔放さ。一方、親は充分な噛みごたえで親としての威厳を少量でありながら示し、絶対的な安心感を与えてくれる。
この親と子の切れることのない関係に向き合う料理が親子丼だ。だが、「辰の字」の親子丼は少々訳が違う。
子はいつも通り自由奔放。大人を揶揄うかの様にお得意の曖昧さで右へ左で振り回してくる。
親は遂にそんな子に手の付けようがなくなったのだろうか。丼一面に散って数の暴力で子供をしつけようと躍起になっている。
子より親の数多し。丼の上で少子高齢化。
もうもうと立ち昇る湯気の向こうに現代日本の社会情勢が写って見えた。
– 築地 辰の字 親子丼 –