日本にとって穴子料理といえば、煮ツメを引いた煮穴子。 絶対的な美味しさであるから、煮穴子か、それ以外か。 どうしても比較してしまう。 これは、豚の背脂で穴子を大山鳥を包み込み、キャラメリゼした温製テリーヌである。 口 …
甘いものは別腹というが、ここまでくると別腹どころではない。 「好きなだけどうぞ」とホールで供されたチーズケーキを前にして、マダムに問うた。 「みなさんどれくらい食べますか?」 「1/3は軽く食べる方もいらっしゃいます …
ソースの漆黒に映し出された、照明の満月を目にして、獣人と化した。 身の毛が逆立ち、奥底に眠っていた野性が目覚め、理性を失った。 尻尾のコラーゲンや滋味、太い酸味、ワインとフォンが交じり合った気高い旨味。 思わず、ナイ …
愛を感じる鰻である。 噛めば、皮が弾け、しっとりと優しい身に歯が抱き込まれる。 カリっと香ばしい皮目と、蒸された様に柔らかな身の対比は美しく、やがてまとわりついてくるゼラチンの濃い甘みが、生物としての逞しさを感じさせ …
コロッケにナイフを入れる瞬間、いつもドキドキする。 中の具材は何だろうか、想像してワクワクする。 フランス料理ないし高級店では、供されると同時に説明が入るので中身は分かってしまうのだが、具材の大きさや密度はナイフを入れな …
セロリ、胡瓜、人参、カリフラワー、パプリカ、玉葱、ヤングコーン。 野菜一つ一つから、命の雫が滴り、舌の渇きが潤っていく。 清らかなハーブに細胞が洗われ、健やかな旨味が、寄せては返す。 静かな空間で、野菜達の合唱が響き …
「とっておきのデセールです、トイレは必ず済ましておいて下さい。」 高橋マダムから、そう言われて落ち着かなかった。 「トマトソルベのグラタン」である。 冷たいトマトソルベに熱々のサバイヨンを乗せたこの一皿は、供する時間 …
食べた瞬間、豚になっても良いと思った。 皮のコラーゲンの甘さが目を細めさせ、頬肉が歯を抱き込み、脳味噌が心を溶かし、耳がコリっと弾む。 四角形の中に様々な旨味と食感が潜んでいて、歯や舌に訴えかけてくる。 その渾然一体を、 …
ヒラスズキは微笑んでいた。 品の良い甘味に満ち、隆々な肉体はふっくらと弛緩していた。 ほぐれた肉体に、滋味溢れる蛤のエキスや色灯ともす蛍烏賊、ほくほくとした空豆の穏やかな青味が寄り添い、喜んでいた。 そんなヒラスズキ …
新作にして、スペシャリテとして君臨する風格が既にあった。 鰻の皮目、身、煮詰めたフォンを固めたジュレを重ねた冷静テリーヌである。 プチッと弾ける皮目のゼラチン、しっとりとした白身、純度100のジュレ、三つの層を舌に乗 …