フランス料理

スペシャリテ

  人参のムースと同じく五十嵐シェフの長年のスペシャリテである「豚足のポルト酒煮込み」。 足を開いて骨を除き、鳥のムースと茸を詰めたそれは、ポルト酒の甘い典雅を香らせ、「さぁ、食べて」と耳元で囁く。 歯や歯茎に絡みつきな …

動物と化す

  蛤は、人間の奥底に眠っている動物的本能を沸き立てる。 海底に宿り栄養を蓄え、はち切れんばかりに太りきった肉体は、「噛む」というプリミティブな動物的行為への熱情に満ちている。 サクッと弾ける痛快な衣を纏ったこの蛤のベニ …

春ですね

  バターの光に反射して艶めく麗しい白アスパラガスを目前にして、春の訪れを実感する。 繊細な命の萌芽の香りが漂い、大地の甘さをたたえた甘やかな汁が滲み出す大樹の如き太い一本。 拙い甘味と微かに差し込める苦味の光は春の陽気 …

カレー育ち

極限に生に近しくそれでいて生ではない、ミキュイされた魚介達。 鰆には男性的渋みを、太刀魚には花弁の様な繊細を、甘鯛には女性的慈愛を、鰻には身体昂ぶる滋味を、帆立には心溶かす甘味を、海老には張り詰めた肉体を。 皿の上で一堂 …

カオナシ

  これは普通の白子ムニエルではない。 ソースにフォンとバターが境目なく抱き合っている。 ぷりっ、とろり、とろとろ。 熱々を口に入れると、いけない甘みがフォンとバターの純真と溶け合い、脳がゆっくり溶けていく。 あぁ、あぁ …