「美味しい」の語源は「美し(いし)」。 元来、味に限らず兎に角何かを褒める時に使われた言葉だ。 足の細いガラスの中でムースとジュレが煌めく姿は、見る者の心を奪う美しさ。 口に含んだ瞬間、牛乳の甘味を抱き込んだムースの …
フランス料理のデセールは重たければ重たいほど良い。 メインの余韻を吹き飛ばす濃厚な甘味が無ければ、食事が締まらない。 至急エスプレッソを欲したくなるほどに濃密なチョコレートと芳香漂うバニラアイスは、これぞ!と声高らか …
これが猪か。 儚く消えていく脂と勇猛な肉質の対比は、牛や豚、鳥には無い猪の独特。 どこまでもピュアで淀みなく、それでいて猛々しい。 脂がぐんと乗って舌に迫るが、筋肉を感じさせる身の張り方があって命が迫ってくる。 噛む …
何度食べても、顔が緩んでしまう。 Artichautのスペシャリテ「フォアグラとモリーユ茸のフラン」である。 口腔内のどこにも引っかからず広がり、脂と卵が境目なく混ざり合ったフラン。 歯を入れると密度高い森の滋養を吐 …
ホワイトアスパラガスを食べる時は一口が小さくなる。 ナイフを入れる度に甘やかな汁が溢れ出し、皿全体の甘味の濃度が増すからだ。 命の萌香を漂わせる瑞々しいアスパラの穂先は甘く、根元はほろ苦い。 卵黄の甘味は穂先に寄り添 …
北島亭のタルトは不可思議である。 メインの肉を終え、胃袋が悲鳴を上げる寸前でもスルスルと収まってしまう軽さがある。 生地はみっしり詰まり、深くギラめく苺は山盛り。ポーションはパティスリーのそれ以上である。 だが、一口 …
牛が言う。 「さぁ、噛め!」 私はこう返す。 「言われずとも噛んでやる。」 ナイフを入れ口に運べば、牛は歯が入るのを待ち侘びていたかの様に肉汁を吐き出す。 根性のある赤身と柔らかな脂身が砕け、エシャロットの切れ味が鋭 …
カレイの中でとりわけ身が細く、味わいは澄んでいて純白な柳カレイ。 その上品さは糸の様に繊細故に、守りの薄味で供されることが多いが、北島亭は攻めの強味だ。 塩を思い切り当てた後、たっぷりのバターで火を入れる。 皮目は香 …
時は緩み、そして加速した。 何を言っているんだと思うだろう。 でも、本当に時は緩み、そして加速したのだ。 トリュフの艶美香るソースが、フォアグラの持つ脂の甘美と抱擁する。 舌に乗せれば、ふわりと崩れ、艶美と甘美が一つにな …