どこまでもきめ細やかで、しなやかな肉に歯が迎えられた時、瞼の裏に広大な蝦夷を駆ける鹿の姿を見た。 そこには誰にも束縛されず、自由に命を育んできた野生だけが持つ純潔がある一方で、人間によって引き出された勇猛がある。 生 …
噛まずに、舌にそっと置き、溶かす。 これが、フォアグラの嗜みである。 すうっと舌の上で溶け、ほんのりと甘い香りを放ちながら、跡形もなく消えていく。 脂の塊なのに、微塵もいやらしくない。 ポワレする前に的確な塩が当てら …
気付けば、ずっとコレを食べている。 北島亭といえば「生ウニのコンソメゼリー寄せ」。 だが、私にとっての永遠のスタンダードナンバーは、「タラバガニのクレミューズ ブリニ添え」。 マヨネーズの様なソースで和えたほぐしたカ …
この世で最も溺愛する液体の「海老のビスク」。 この世で最も溺愛するルセットの「パイ包み焼き」。 そう、この一皿には私の好物が全て詰まっている。 ナイフを入れると、パイから美味しい産声が聞こえ、鮑と海老が顔を出した。 …
ネギに身を潜めた蛤と目があった時、頬を赤らめた。 白濁とした汁を滴らせた姿、陽の光を初めて浴びたかの様な透き通った肌に、色気を感じたからだ。 穢れなど一切見られないその純粋無垢を前に、鼻息を荒くした自分を恥じらいつつ、ゆ …
思わずメニューを何度も見返してしまった。 「平目に林檎ソース」である。 聞けば、北島シェフの新作だと言う。 恐る恐る口に運ぶと、顔が瞬時に崩れた。 林檎の淡い甘みが、平目の繊細に見事に寄り添っているではないか。 皮目 …
アラは、今にもはち切れそうになっていた。 純白な肌を露わにして、ふっくらと膨らんだ艶めかしい身体で「はやく食べて。」と囁いていた。 誘われる様にそっと口に運んだ。 しっとりと脂がのった、気品ある甘みが、サフランの心地 …
何故これほど前に美味しいのか。 茸をエシャロット、バター、塩胡椒、パセリで炒めただけなのに。 逞しい面のセップ茸だが、気温や気候の変化に強い影響を受けやすく、実は繊細。 それでいて、松茸やトリュフと同様に人の手による …
厳しい自然環境を生き抜いた野生の鳥は、人間に迎合することなど考えていない。 噛むと感じる青葉の様な香りと苦味は、肝や内臓とは違う、森の苦味。口腔にしぶとくいすわり、迫ってくるそれは、舌に甘えない孤高である。 だが、栗やジ …
キャベツというのは、包容力の塊である。 挽肉を包み込んだロールキャベツを始め、この「縮緬キャベツとフォアグラのテリーヌ」もまた、キャベツの懐の深さに感心させられた。 濃密で妖美なフォアグラを挟み込んだ縮緬キャベツの薄 …