「肩の力を抜きなよ」 仔牛が耳元で囁いてきた。 環境が変化する新年度を迎え、目まぐるしく過ぎ往く日々に早くも徒労気味だったが、仔牛のブランケットに救われた。 サクサクと軽いパイを破れば、バターとソースが交錯した温かな …
月: 2024年4月
“Petits pois à la française” 「バター香る、グリンピースのフランス風」 豆が主役の素朴な料理だが、歴史ある立派なフランス料理の一つである。 玉ねぎとベーコンをまとめ上げ …
日本にとって穴子料理といえば、煮ツメを引いた煮穴子。 絶対的な美味しさであるから、煮穴子か、それ以外か。 どうしても比較してしまう。 これは、豚の背脂で穴子を大山鳥を包み込み、キャラメリゼした温製テリーヌである。 口 …
これが豚とは信じられなかった。 世界3大ハムの一つ、幻の豚と呼ばれる金華豚である。 自身の脂で照った艶々しい肉体は、手をつけるのを躊躇わせるほどに美しい。 切れば、ナイフを伝って柔らかい身質を感じ、鼻腔にこびりついて …
ウユマヨからシェフの性格が見えた。 比内地鶏の卵に乗るのは、噴火湾ズワイガニ。 生命の律動を感じる黄身と、小波の様に引いては寄す繊細な蟹の対比がまず美しい。 それに、しばしうっとりとしていると、柚子胡椒が舌を駆け抜け …
心から喜びの念が込み上げた。 なめらかで丸い人参のムースと動物達の高貴な気配を感じるコンソメジュレと濃厚で味わい深い雲丹が、一寸の狂いなく、この一点しかないという頂を極めて調和を果たしている。 一切の澱みがなく、清ら …
甘いものは別腹というが、ここまでくると別腹どころではない。 「好きなだけどうぞ」とホールで供されたチーズケーキを前にして、マダムに問うた。 「みなさんどれくらい食べますか?」 「1/3は軽く食べる方もいらっしゃいます …
ソースの漆黒に映し出された、照明の満月を目にして、獣人と化した。 身の毛が逆立ち、奥底に眠っていた野性が目覚め、理性を失った。 尻尾のコラーゲンや滋味、太い酸味、ワインとフォンが交じり合った気高い旨味。 思わず、ナイ …
愛を感じる鰻である。 噛めば、皮が弾け、しっとりと優しい身に歯が抱き込まれる。 カリっと香ばしい皮目と、蒸された様に柔らかな身の対比は美しく、やがてまとわりついてくるゼラチンの濃い甘みが、生物としての逞しさを感じさせ …
コロッケにナイフを入れる瞬間、いつもドキドキする。 中の具材は何だろうか、想像してワクワクする。 フランス料理ないし高級店では、供されると同時に説明が入るので中身は分かってしまうのだが、具材の大きさや密度はナイフを入れな …