「鶏は人気が無いです。」 高橋マダムがそう言った。 気持ちは分からなくもない。 鶏は庶民的で身近な肉だ。 故に、折角なら家庭では簡単に味わえない牛や羊を食べたい気持ちは分かる。 だが、このプーレジョーヌを食べてみてほ …
甘鯛が笑っていた。 香ばしい皮目を破れば、淑やかな身がほろほろと崩れ、緩い甘みが顔を出す。 クリームソースは優しく寄り添い、甘鯛を温める。 トリュフを纏ったミルフィーユ状のキャベツは、トリュフが精妙で出しゃばっていな …
「ありがとう」 自然と声が漏れた。 「春野菜のリゾット」である。 ゆっくりと流れる米の甘みに、蛍烏賊がねっとりと絡み、野菜がサクサクとリズムを鳴らす。 米の慈愛に心が和み、蛍烏賊の呼吸に胸が焦らされ、春野菜の声に身体が洗 …
「ウフブルイユ」 音感がそうさせるのか、口にしただけでなんだか気持ちが良い料理である。 口に近づければ、バターの甘い香りが鼻をくすぐって、「あぁ」と言葉を漏らす。 食べれば、鳥のフォンやバターのコクと空気を孕んだスク …
ギリギリまで焼きこまれた香ばしい軽やかなフィユタージュ。 歯茎や舌に絡みついて取れない濃厚で重厚なカスタード。 この対比がミルフィーユである。 前者は香ばしく軽ければ軽いほど望ましく、後者は濃く重ければ重いほど望まし …
なんて、パフォーマンスの悪い料理であろうか。 フードプロセッサーにかけ、2~3日かけてゆっくりと濾すことでトマトの水分のみを抽出したゼリーである。 グラス一杯で最低5つはトマトが必要。 なんて、パフォーマンスの悪い料 …
マダムが言うままに、皿の上で頬肉を崩してから口に運んだ。 あぁ、何たることか。 フォンとマデラ酒が境目なく溶け合った太い旨味に、繊維から滲み出る頬肉の滋味が浸透し、身体がゆっくりと沈んでいく。 食べ進める毎に皿の深度 …
五十嵐シェフの魚料理が大好きだ。 的確な施しによって、食材の素質が目覚めているからだ。 平目は、ふっくらと優しいが、ぐっと舌に迫ってくる味わいに勢いがある。 帆立は、歯切れがよく、繊維から溢れる甘味に密度があって濃い。 …
五十嵐シェフのスペシャリテの一つ「鰻のファルシー」。 バターで炒めたワイルドライスを詰め、外はカリッと中はゼラチン質の粘着質を残した鰻に、上にポルト酒を、下にカレーソースを敷いた一皿だ。 カリッと爆ぜる外皮と歯茎に絡 …
冬の名残が残る早春を感じた。 菜の花や蕨が呼び込む春の息吹に、トマトと筍が涼しく爆ぜるが、何より甘エビのねっとりとした甘味が、全体を包んで深く味わせる。 朝晩は冷え込むが、日中の日差しに春を感じさせる3月。 出会いも …