どすん。 皿が置かれた瞬間、地響きが鳴った。 ロワール産ホワイトアスパラガスである。 数本のアスパラが一つになったかの様な、太く立派な躯体に、思わず目を丸くした。 穢れなき苦味とふくよかな甘みは、大地の豊かさを内包し …
生後1ヶ月の仔牛に色艶を感じてしまった。 口に近づければ、柔らかな身質から滲み出る乳の甘やかな香りに、ローズマリーがふわっと乗ってくる。 甘やかなバターやモリーユの滋養、じゃがいもの丸みの全てが、仔牛をそっと抱く。 …
ドーバー海峡の舌平目は、バターに寄りかからない。 こってりとした乳脂に溺れず、自身の旨味を主張する。 その身は、花弁の様な繊細さとは対極。 ぷりぷりと音が立つかのように歯が食い込んでいく。 すると、海峡の荒波に負けな …
フォアグラと豚足。 口にしただけで悪い取り合わせである。 サクサクの後にやってくる、豚足とフォアグラのトロトロ。 ゼラチンと脂が絡み合い、歯や歯茎にまとわりつきながら、迫力ある旨味が口内を包みこんでいく。 あぁ身体に …
胡麻を纏った皮目を歯で破れば、身が舌の動きに添いながらしなやかに解れていく。 あたかも舌に同化する様に甘え、焦ったい桃色の色気を漂せる。 サクラマスに官能が震え、弄ばれ、意識がすっーと遠のいていく。 残酷かな。たった …
4月の北島亭。 アスパラか、フォアグラか。 無論、アスパラである。 ただ茹でただけなのに、穂先からは春が香り、根本から大地のミネラルが溢れ出す。 コリアンダーを忍ばせたオランデーズソースは濃厚だが、決してアスパラを越 …
ちゅる。 牡蠣が口に滑り込んできた。 その瞬間、波の音に鼓膜が震え、母なる海に舌が抱かれた。 乳の濃密な甘みが滲み出し、ビネガーと混じり合い、旨味を膨らます。 フランボワーズが、牡蠣と爽やかに融合し、心地良い磯風が吹 …
成熟する前のしなやかな筋肉が、歯によりかかる。 胸が疼くいたいけな滋味がこぼれ落ちる。 穏やかな芽キャベツが、幼い旨味に歩調を合わせ、春を囁く。 最後に、とっておきの脂身を噛む。 この部位には、神が宿っている。 仔羊 …
はらり。 温かな空気をはらんで、かすべの身が舞う。 かすかな甘みが、繊維に沿って顔を出し、笑顔を生む。 一方で、軟骨は歯の間をコリコリと弾み、歯を喜ばせる。 ソースの太い酸味が、かすべの繊細を愛おしむかのように、そっ …
ナイフは使わず、一口で食べた。 ラビオリの皮が、幻の様に消えていく。 とろみのあるバターで照ったラビオリに、舌や歯が艶やかに撫でられる。 海老は弾け、豚はごろっと舌の上を転がっていく。 海老と豚、それぞれの持ち味の対 …