パンナコッタなのに噛み締めていた。 なめらかだが、濃縮した乳の香りや甘みが奥底からググッとせせり出し、舌や歯茎に絡みついて離さない。 コニャックに陶酔した牛が、舌の上を身悶え、だらしない甘みが広がっていく。
自由奔放な子兎が、舌の上を駆け巡った。 背肉に歯が食い込むと、しなやかな筋肉の味が広がり、内臓には滾るような血の味があって、奥底から深い滋味が顔を出す。 大人になろうとする勢いと未熟ゆえの危うさがあって、なにかいけな …
実にマスキュリンなホタテである。 貝柱を噛むと、歯が吸い込まれていく快感があり、色っぽい海のエキスが顔を出す。 ひもはシコッと歯の間で弾み、卵巣には貝柱とは違った艶やかな甘みがある。 穏やかに見えるホタテだが、内面の …
パイ包みがメニューにあると、分かりやすくテンションが上がる。 これは、朝霧高原豚のパイ包みである。 サクッとナイフを落とせば、豚の滋味が湯気となって昇り、肉汁がソースへ流れる。 富士山麓でのびのびと育てられる朝霧高原 …
クレープ生地から香るバターに吹かれ、しらすがひらりひらりと口を舞うと、桜吹雪の風情漂う。 クリームに埋もれることなく、ラクレットチーズの塩気にも負けていない。 しらすが、しらすであることを誇った甘みが、次第に舌の上に …
「肩の力を抜きなよ」 仔牛が耳元で囁いてきた。 環境が変化する新年度を迎え、目まぐるしく過ぎ往く日々に早くも徒労気味だったが、仔牛のブランケットに救われた。 サクサクと軽いパイを破れば、バターとソースが交錯した温かな …
“Petits pois à la française” 「バター香る、グリンピースのフランス風」 豆が主役の素朴な料理だが、歴史ある立派なフランス料理の一つである。 玉ねぎとベーコンをまとめ上げ …
日本にとって穴子料理といえば、煮ツメを引いた煮穴子。 絶対的な美味しさであるから、煮穴子か、それ以外か。 どうしても比較してしまう。 これは、豚の背脂で穴子を大山鳥を包み込み、キャラメリゼした温製テリーヌである。 口 …
これが豚とは信じられなかった。 世界3大ハムの一つ、幻の豚と呼ばれる金華豚である。 自身の脂で照った艶々しい肉体は、手をつけるのを躊躇わせるほどに美しい。 切れば、ナイフを伝って柔らかい身質を感じ、鼻腔にこびりついて …
ウユマヨからシェフの性格が見えた。 比内地鶏の卵に乗るのは、噴火湾ズワイガニ。 生命の律動を感じる黄身と、小波の様に引いては寄す繊細な蟹の対比がまず美しい。 それに、しばしうっとりとしていると、柚子胡椒が舌を駆け抜け …