ヤリイカに抱かれてしまった。 程よく加熱された痛快な食感と歯茎に絡みつく甘味が、粘着質なワカメとふくよかなホタテによってしぶとさを増し、剥がそうとしても剥がれない。 そして、ラクレットチーズが溶けたトマトソースはうま …
「美味しい」の語源は「美し(いし)」。 元来、味に限らず兎に角何かを褒める時に使われた言葉だ。 足の細いガラスの中でムースとジュレが煌めく姿は、見る者の心を奪う美しさ。 口に含んだ瞬間、牛乳の甘味を抱き込んだムースの …
遡ること小学生時代。 人生で初めて口にしたベーグルが、母が買ってきたMARUICHI BAGELだった。 当時はベーグルの存在など勿論知らず、穴の空いた食べ物なんて竹輪かドーナツの2択だった。 興味津々で齧り付くと、 …
フランス料理のデセールは重たければ重たいほど良い。 メインの余韻を吹き飛ばす濃厚な甘味が無ければ、食事が締まらない。 至急エスプレッソを欲したくなるほどに濃密なチョコレートと芳香漂うバニラアイスは、これぞ!と声高らか …
これが猪か。 儚く消えていく脂と勇猛な肉質の対比は、牛や豚、鳥には無い猪の独特。 どこまでもピュアで淀みなく、それでいて猛々しい。 脂がぐんと乗って舌に迫るが、筋肉を感じさせる身の張り方があって命が迫ってくる。 噛む …
何度食べても、顔が緩んでしまう。 Artichautのスペシャリテ「フォアグラとモリーユ茸のフラン」である。 口腔内のどこにも引っかからず広がり、脂と卵が境目なく混ざり合ったフラン。 歯を入れると密度高い森の滋養を吐 …
ホワイトアスパラガスを食べる時は一口が小さくなる。 ナイフを入れる度に甘やかな汁が溢れ出し、皿全体の甘味の濃度が増すからだ。 命の萌香を漂わせる瑞々しいアスパラの穂先は甘く、根元はほろ苦い。 卵黄の甘味は穂先に寄り添 …
北島亭のタルトは不可思議である。 メインの肉を終え、胃袋が悲鳴を上げる寸前でもスルスルと収まってしまう軽さがある。 生地はみっしり詰まり、深くギラめく苺は山盛り。ポーションはパティスリーのそれ以上である。 だが、一口 …
初めて訪問した時を今でも覚えている。 外からは店内の様子が一切伺えない謎めいた雰囲気。 扉はやたらと重く、足を踏ん張って腰に力を入れないと開かないほどだ。 重厚な扉を開ければ、白い割烹着に身を包んだ料理人島田 良彦氏 …